今回は、インターネットでゴルフのワンストップ・サービス(見る・買う・行く・楽しむ)を展開する株式会社ゴルフダイジェスト・オンライン(本社:東京都品川区、代表取締役社長:石坂信也、以下GDO)お客様体験デザイン本部の大山公一部長との対談になります。
大山:服部先生にはCRMプロジェクトの戦略設計指導コンサルティングをしていただきました。
服部:いま、デジタルマーケティングの成功事例ではGDOさんのケースがよく取り上げられていますね。
大山さんもICT業界セミナーなどで登壇されていらっしゃいますね。
大山:システムを提供いただいたセールスフォースさんや業界関連企業さんなどからお声が掛かっております。
服部:今日は話を三つに分けて展開したいと思います。一つは、CRMプロジェクト前にGDOさんが行っていた過去のマーケティング手法について。二つは、CRMプロジェクトについて、三つはフィジビリテイの成果についてということでよろしくお願いいたします。
過去、マーケティング手法はこうやっていた
大山:当時弊社は、短期目線で刈り取り中心のマーケティングを行っていた結果、売上の伸び悩み、打ち手の限界という壁にあたっていました。過去一定期間のトランザクションデータ(ログ)項目を、定めたルールで集計し並び替え表示する分析手法、タイムスライス分析にて重点項目を見つけ、そこにリソース投下することで売り上げアップを目指そうとしていました。こういった活動はどこでもやっているのだと思います。データを分析解析し、KPI化し、時系列で並べます。そして何かしらのKPIに着目し、それを引き上げるべく施策を打とうとします。たとえば、CV数を引き上げるためにビジター数を引き上げようと。CV率がこのくらいだからビジター数をこのくらい伸ばそうと。しかし、そのためには場当たり的な手、スローガンのような方針しかでてこないのです。今期の目標は売り上げいくら!そのためにビジターをこれだけ伸ばす!そのためにいくら使って集客する!みたいなことです。いろいろなEC企業の方と会って話を伺いましたが、どこも似たような状況です。抜本的な打ち手がなくて困っているのですね。結局カンフル剤を打ち続けるしかないような状況に陥る。リスティング広告をもっと打つとか、クーポンをばらまくとか。
服部:ECもマスマーケティングの限界にたどり着いていることを自覚しないといけませんね。アメリカは、マスマーケティング一辺倒ですから。ロードサイドの立看板やサインからスタートしたマーケティング文化ですからね。アメリカから輸入したリスティング広告や、チラシ、クーポンなどマスマーケティング手法でとった顧客は、メールアドレスがあっても人間関係性が構築されていない。ですから会員登録しておしまい。注文いただいたら商品を送って代金決済をしておしまいと対処している限り、リストとして打ち出される顧客にアプローチしても、リアクションはなかなか生まれないのです。以前、自動車用品大手企業が、タイヤを交換して3年経過した顧客に、タイヤのチラシを郵送し来店促進をしましたが、来店者はゼロということでした。大山さんが今おっしゃったことはマスマーケティングの隆盛と衰退を知っている私たち年配者からしてみれば周知の事実なのです。でも、Webマーケティングをやる若い人たちは、そんな経験をしていませんから、対応が分からないのです。そこで、場当たりな解決方法を求めてしまうのですね。結局はスローガンを並べて、後は人任せになるため、逆に課題を分散させるだけで、担当各部門も行き詰る。部門は行き詰った施策の活路を、新しいメディアやリスティング広告などに求め、新客獲得に走るが、顧客を中心に据えた施策がなく、集計分析思考から抜け出ていないために、新客は定着しない。課題の根源である結果論にデータ解析数字というマジックを与えて結果論を正当化することが、そもそも問題であることに早く気が付かなければならないのですがね。
大山:その通りです。行動して出た結果だけを論じても元の行為が変わることはありません。結果論を論じて数字だけに着目し、机上の空論で未来を変えようとしているのですね。
服部:このような集計分析は、データベースマーケティングの発展とともにシステム主導で作られた分析手法です。単純な集計分析は、過去の結果後追い(あとおい)分析とも言われ、過去の状態を知るためには有効であり、また、期間の異なる複数の同一分析データを比較することで過去の時系列推移(例えば購入頻度が下がっている等)を知るためには有効です。しかし、それでどう売り上げを伸ばすのだと問われると答えに行き詰る、売り上げアップの手法になり得ません。
大山:おっしゃる通りです。今流行りのマーケティングオートメーション導入時に検討するリードナーチャリング、リードクオリフィケーションといったファネル管理も同じです。商談、受注に向けて見込み客を動かしていくというのは概念の話で、過去の数値を集計してファネルに数字を並べたところで、打ち手は生まれません。ここの遷移率を〇%上げようとか、リードを〇件増やそうとか、スローガンが生まれるだけです。
服部:そんな課題からワントゥワンマーケティングが生まれてきたんですね。マスマーケティングをやっている人たちは自分の手の中にあるカードで何とかしようと思いがちになりますのでそれが誤りとは誰一人として気が付かないのです。一番の課題は、アクションをすればリアクションをしてくれるお客様がいらっしゃるのかというところです。
大山:特にWebビジネスをやっていると一人が担当するお客様が多く、直接的な接点もないので、データを相手にした仕事をしていると思いがちですね。生身の人間と相対している商売人であることを忘れてしまう。だから顧客理念が重要なんだと思います。
GDOがトライアルしたCRM はなぜ失敗したのか
服部:さてGDOとしてCRMプロジェクトを始めたわけですが、過去にいろいろなことをやったとおっしゃっておりましたね。
大山:過去に似たような取り組みを何かやっているだろうとの発想から社内資料検証から入りました。いろいろ説明を加えるとわかりやすいと思うのですが、それは今度服部さんと共著で出版する本に詳しく書きましたのでそちらに譲ってここでは簡単に項目だけを上げます。
はじめにRFM分析を調べました。CRM分析と言えばRFM分析だというイメージが普及していましたから。しかしやった痕跡はあるのですがうまくいかず定着した事例はありませんでした。
失敗に終わっているわけです。
次は、絞り込み分析を調べました。これも失敗した痕跡しか残っていませんでした。
次は、ターゲティング分析を調べました。これも失敗でした。最後にデータマイニング分析を行いました。単発で成果があったケースも見えましたが継続性がない。
いきなり暗礁に乗り上げました。
服部:失敗した理由はなんでしたか。
大山:このような顧客分析は、すべて顧客を絞り込んで配信先を小さくしていく分析です。まず、過去に注文率の高いセグメントを見つけられたとしても、そのセグメントに在籍する人数が少ないこと。施策の対象母数が少ないために何か施策を実施したとしても、獲得できる注文数も少なくなってしまう。そして、注文率が高い理由が不明確であること。
このセグメントは一か月以内に、または一週間以内に注文する確率が○%である。と結論が出たところで、打てる施策は限られてしまう。結局はクーポンを送るか、チラシを送るか。そもそも全配信メールを毎日全会員に送ることが販促施策のベースとなっているため、すでにそういったセグメントにもクーポンやチラシメールが毎日のように届いている状況です。ターゲティングする必要がないんですね。
結局、様々なCRM施策は、運用に定着することなく単発で終わっていたわけです。
分析解析をしたら売り上げが伸びることはない。
服部:大山さんが今お話しされたことは大変に示唆に富んだ内容です。分析解析することと、売り上げを伸ばすこととは別なことです。
いまでもRFM分析 の学術的な成果検証は曖昧のままに放置されています。デジタル系企業では、すぐに成果が具体的に計測されますから。大山さんは前任者が残された資料から個々を紐解いて、分析解析で売り上げが伸びないことを証明されたわけです。
大山:まさにこの図通りです。結果を見るのならこれでいいですが、未来を変えようとすると具体性がないために無理です。
過去取り組んだ事例を検証しましたが、どれも出口がない状況でした。CRMプロジェクトもひどい状況になりました。回答を早く見つけないとメンバーの士気も低下しCRMプロジェクトはダメになるとさえ思っていました。
そんなときに、ネットで調べていたら服部隆幸CRMアーカイブズブログを見つけたのです。その内容に衝撃を受けました。いままで謎であったRFM分析の疑問が一瞬で溶けて行った。それからCRMアーカイブを隅から隅まで読み漁りました。さらに、服部さんの書籍を購入し、熟読しました。
まさしく服部さんの提唱する考え方こそが、GDOに必要なものだと思いました。
暗礁に乗り上げて打つ手もなくひどい状態であった私の中に新たな光がさした瞬間でした。早速連絡を取り、面談を依頼したわけです。
服部:そうでしたね。
あるべきWebマーケティングの姿を考えてみましょう
大山:面談で現状のマーケティング手法を語り、当社は顧客戦略ができていない、やっていないと説明をしましたね。だから顧客戦略を導入したいと。すると、服部さんは「顧客戦略をやっていないとおっしゃいましたが、実際にはお客様を無視する戦略をやり続けているのですよ」と、顔色一つ変えずに辛口で語りました。プロジェクトメンバーの顔色が変わりましたね。だれもが、顧客戦略はやれていないけれどお客様は大切にしていると自負していますからね。
服部:そうでしたね。あるべきWebマーケティングの姿とは何かを考えながら私はなぜそのような発言をしたかを話しましょう。大山さんはわかっていらっしゃることですが、この対談を読んでくださる方々にとっては初めてのことなので、話をします。
わかりやすくするためにWebマーケティングの構造をON とOFFに大別して考えましょう。
ONは、広告技術、販売技術、接客技術の3つで構成され、OFFは、顧客とOFFの時にお客様が他店に流れないようにケアする技術で、次の来店を促進する技術なども含みます。OFF全体を顧客戦略と名付けています。
内訳は、顧客と関係性を築きあげていく顧客ケア、顧客学習を促進し商品に関する真の理解者に育てる商品ケア、接客担当者が購入に誘導する商品提案、同じくイベント案内等です。
この姿を基準として考えてみましょう。
EC企業で実際に行われているのは、技術進歩が著しい広告露出技術と、HTMLメール等を使った販売部署別チラシの送付など販売技術の二つです。
顧客の行動には二つの型があります、一つは、企業行動の結果として顧客行動、英語でいえばリアクションです。二つは顧客自発的行動です。これらの境界線はあいまいです。目くじらを立てて境界性を引くほどの必要はありませんが、顧客行動の区分けを知ることは重要なことです。
さて、結論を出しましょう。顧客戦略をやっていないとは、顧客に対する行動を何もしていないということです。お客様から見れば売ってしまったら売り放しということになります。チラシは先の区分で販売技術ですから顧客戦略には該当しません。
大山:プロジェクトメンバーは意味を理解して安堵し、また方向性が見えてきた一瞬でした。。EC業界がWebマーケティングとは何かを定義していないのです。
ONで広告技術、販売技術、接客技術の3つ、OFFで顧客戦略を実現できるのですね。
ログデータとは何かを考えていないということに尽きます。その話を伺い、服部さんに戦略設計コンサルティングとして依頼しようと決まりました。そして、はじめに顧客理念からつくりましょうとの話は驚きでした。
新しい戦略のカタチ
服部:私たちが導入提案しました戦略概念図はこれです。
大山:この図です。はじめに人間から入りましたね。人間とは顧客だけでなく社内も人間だと。人間同士という概念が大事だと。まずは顧客理念が必要だと。顧客ビヘイビアが必要だと。シナリオを作成するときに必要になると。顧客学習、社員学習の両立が必要だと。これからのコミュニケーションは学習の成果であると。Webマーケティングは人間を対象にしたマーケティングになっていかなければならないと。
はじめに人間から入るという意味が、プロジェクトが進むにつれ、その意味について理解が深まってきました。
服部:その結果、GDOさんは広告露出技術だけでなく、販売技術、接客技術そして、顧客ケア、商品ケア、商品提案技術までを身につけたのです。そのうえ、人間が対象のOne to Oneマーケティングであることを理解して、顧客理念、ビヘイビアに基づいた素晴らしい展開をしています。シナリオもそこに合わせていますね。
だれも信じなかった成果
服部:フィジビリテイの結果について教えて頂けませんか
大山:事前の予想を遥かに超えた驚きの結果が出ていたのです。
だれもが、いままでの数値とあまりにもかけ離れているので、システムが壊れたのか集計ミスがあったのかどちらかだと思っていました。
新しく会員になられた顧客グループを二つのグループにしました。
今回新たに作った顧客戦略に基づきコミュニケーションを展開するグループをAグループ。従来通りの手法で展開するグループをBグループとしました。
GDOの業務は、ゴルフ場予約業務と商品販売、それにゴルフポータルであるため広告業、それにリアル店舗ビジネスなどがあります。
ここではゴルフ場予約とEC購入の二大事業で比較をしました。
ゴルフ場予約・EC購入双方稼働率
新しい手法で展開したAグループは、従来手法のBグループと比べ、ゴルフ場予約をして、かつECで購入をした双方購入率は185.2.%にアップしました。
メール開封率
Aグループは、Bグループと比べ175,1%にアップしました。
クリック率
AグループはBグループと比べ134.0%にアップした。
予約分析
AグループはBグループより、一人当たり予約件数が109%高く、予約後のキャンセル率が14%減少している。
キャンセル率の減少は、服部さんが10数年前に開発したシナリオCRMの展開でも同様な結果が実現していますね。
購入分析
Aグループ購入者の一人あたりの購入金額、購入点数は、Aグループの指標が良いことが分かりました。
開封率の分析
Aグループのフィジビリテイ期間中の開封率は、従来方式のBグループと比べて初日と最終日で、最終日の方が35%上昇していることが分かりました。右肩上がりで伸びていったわけです
一方、Bグループの開封率は初日と比べ最終日は53%低下していました。
クリック率の分析
Aグループのクリック率は、従来方式のBグループと比べて初日と最終日で、192%上昇していることが分かりました。
Bグループのクリック率は初日と比べ最終日は70%も低下していたのです。
配信数と開封者との関係
説明が必要ですね。ECでは顧客にメールを配信すると一定の受注があるためにメール配信の量が次第に増えていきます。しかし増えすぎると顧客はうっとうしくなります。
我々も何とかしなければいけないと考えていたのですが、配信回数を減らすことは勇気がいります。しかしこのフィジビリテイではAグループには、従来方式と比べ延べ配信数を36%減らしています。にもかかわらず延べ開封数は113%アップしていたのです。
こうしてフィジビリテイは成功裏に終わりました。ここまで顕著な違いが現れるとは想定以上の成果でした。
服部:素晴らしい成功でしたね。成功の要因は何だと思いますか。
大山:一言でいうなら戦略設計の勝利です。デジタルマ―ケティング系は戦略設計構築がカギだと確信しています。要素がたくさんありますから、統合がむずかしく、特にシナリオメールマーケティングではシナリオをつくればそれで済むと思いがちです。それは間違いですね。
具体的に戦略を語るなら、2枚の戦略図の通りです。従来はチラシを送ってその結果を一定期間の過去データにして溜め解析していました。しかし分析や解析をすれば売上げを回復することはできないのです。ただ、解析は結果を解析するためには必要です。活用する場所を間違えているのです。
顧客学習のフィルターを通して人間学習を行う。そのための行動を展開する。ここにゴルフ大好きな女子顧客マネージャーを配置しました。
従来の手法が、広告技術+現場任せのチラシ配信+分析解析であったものが、新しい戦略では、服部さんの言葉をそのまま使うなら、広告技術+販売技術に加え+接客技術+顧客と関係性を築きあげていく顧客ケア技術+顧客学習を促進し商品に関する真の理解者に育てる商品ケア技術+接客担当者が購入に誘導する商品提案技術、同じくイベント案内技術を加えた強力なプロセスを持った組織体制に生まれ変わったのです。単にCRMを導入するというレベルではなく、言うまでもなくRFM分析を導入するという類のものではなかったのです。
服部:GDOさんの戦略は、行動のすべてが無駄なく顧客に向けられてしかも統合されていますね。新鮮で活き活きとしている顧客のログデータを活用する技術が組み込まれていますね。
従来手法はそこを理解していないのです。
具体的に言うならば、顧客の行動軌跡を後追いしている間はデジタル化の特典を得ることはできないということです。デジタル化の特典とは行動を制御できるということです。制御可能こそがデジタル化の意味を真に理解し導入した者に与えられる特典です。行動を過去のものにして溜め込み解析したところで、それは結果の解析論に過ぎません。解析の価値は生まれますが解析の結果、例えば予測を立てても次の行動とつなげることはできないのです。営業現場も経営も心から欲しいのは、行動を伴う次の一手の提示です。
大山:わかります。一言でわかる伝えやすい言葉はありませんかね。伝えることがむずかしい。
服部:ドラクエに学べ!です。伝えやすい言葉かどうかは別ですが(笑)つまりは一言では語れないということです。
大山:なるほど。ドラクエを手掛かりにすることですね。ログを過去データにして解析していませんね。ゲーマーは主人公と一緒に行動してログを取っている。現在進行形データを基に進んでいるわけですね。だから次の一手がつくれる。2枚目の図に戻る訳ですね。
ところで、服部メソッドも一段と進歩したのでネーミングを与えると言っておりましたね。名前は決まりましたか。
服部:PINOSOLAです。覚え方は簡単です。コンビニでピノチョコレートを一箱買ってください。130円です。コンビニを出たらPINOを左手に持って、This is a PINO This is SOLA右人差し指で.空を指さす。 ウームPINOSOLA 。これを一回やればもう忘れられません。(笑)
大山:人が集まってくるでしょうね。(笑)ちなみに、PINOSOLAの響きにはどんな音楽が合うでしょう?
服部:坂本龍一博士が作曲した「戦場のメリークリスマス」をイメージして響き合うような名前を考えました。
大山:なるほど。面白いですね。イメージがよく表れているように思います。先生の軽快な感じもよく出ていてイメージ通りの名前ですね。
服部:大山さんと共著を出します。大山さんの原稿だけで5万字。成功事例の詳細が語られます。原稿は出来上がっています。それに私が5万字として合計で10万字。デジタルマーケティングやWebマーケティングに革命を起こしそうな内容を持った本です。アマゾンで購入できる電子書籍になるかもしれません。
大山さん。対談どうもありがとうございました。大山さんとはいつお話をしても勉強になります。
大山:こちらこそありがとうございます。